漫画喫茶がなぜ誕生し、今日のインターネットカフェがここまで流行したのか。
これまでの歴史を振り返ると、「ネットカフェという業態がいかに独特か」が分かります。
この記事では、元ネットカフェ店員である私が、漫画喫茶・インターネットカフェの起源と歴史について時系列とともに解説します。
なお、ざっくり解説に加えて、情報源はあくまでもネットの情報です。個人の見解も含むため、参考程度に読んでもらえれば幸いです。
漫画喫茶の起源は名古屋の喫茶店?
漫画喫茶は1975〜1976年あたりに誕生したとされています。いきなり憶測的な表現ですが、正確なデータはありません。
なぜなら、「私のお店が元祖漫画喫茶だ」と言い張るお店がいくつかあり、客観的な記録が見当たらないためです。
そもそも漫画喫茶の起源は、“喫茶店に漫画を置きはじめた”という、単なるサービスの一環に過ぎません。
とある名古屋の喫茶店で、1万冊以上の漫画や雑誌をお店に置いたところ、他県から人が集まりだしたのがきっかけとのこと。
コーヒー1杯で1日中漫画を読み続けるお客さんの対策として、今のネカフェの仕組みである時間制が誕生したようです。
インターネットカフェの起源は渋谷のカフェ
1995年6月、東京・渋谷にできた「エレクトロニック・カフェ」が最初のインターネットカフェとされています。
当時はインターネット黎明期であり、Apple社の主力PCである「Macintosh」が提供されてお店が誕生しました。
このカフェはインターネットの普及に貢献したようですが、およそ1年でお店は閉店。その跡地には映画館ができ、まだまだ時代に追いついていなかったことが伺えます。
漫画喫茶・インターネットカフェの流行の歴史
1990年代後半から2010年代後半にかけて、漫画喫茶・インターネットカフェの歴史を見ていきましょう。
1997年・1998年に有名チェーン店がオープン
1997年に初の漫画喫茶チェーン「ゲラゲラ」の1号店が東京田町にオープンします。
ゲラゲラは今も関東にお店を展開する一番の老舗であり、現在も昔ながらの漫画喫茶スタイルを貫いています。
1998年に業界大手の複合カフェ「自遊空間」1号店が、埼玉県春日部市にオープンします。
自遊空間も今なお続く老舗であり、時代の変化を受けて設備・サービスを強化し、フランチャイズによる全国展開を積極的に行いました。
また、漫画だけでなくネット・ゲーム・アミューズメントなどのサービスを含む、「複合カフェ(インターネットカフェ)」の元祖のようです。
2003年に快活クラブの1号店がオープン
現在業界最大手の「快活クラブ」は意外と後発組で、2003年に1号店をオープンします。
紳士服で業績を伸ばすAOKIグループのエンタメ事業として手がけた快活は、郊外に広々としたお店を展開し、着実に全国へと進出。
2021年に業界唯一の全都道府県出店を達成し、今では500店舗を超える業界トップの店舗数を誇ります。
2004年の労働者派遣法改正が転機
インターネットカフェの流行に大きく影響したのは、2004年の労働者派遣法改正です。
これにより人材派遣業社が取り扱える業務が増え、日雇労働者が急増し、ネットカフェでその日暮らしをする人が増えていきます。
それまではカプセルホテルに寝泊まりしていた人が、安価で寝泊まりできるインターネットカフェに住処を移したタイミングでもあるんですね。
日本複合カフェ協会(JCAA)が発足
2004年、今では多くのネットカフェチェーン店が加盟する組織、「日本複合カフェ協会(JCAA)」が発足されました。
インターネットカフェは、“風営法”や“旅館業法”に抵触しないグレーな営業を行うお店が多いです。
匿名のPC利用者によるサイバー犯罪、未成年のトラブル、違法薬物の売買など、様々な問題で業界全体のイメージが悪化していました。
それを受け、JCAAはイメージの改善と健全な運営を心がけ、クリーンな業界を目指している組織です。
加盟店は「利用者の身分確認を必須にする」という規約を設けています。
2007年「ネットカフェ難民」という言葉が話題に
「ネットカフェ難民」という言葉が「新語・流行語大賞」のトップテンに選ばれたことで、利用者層以外に知れ渡りました。
NHKのドキュメンタリー番組で、ネカフェ暮らしをしている人をネットカフェ難民と表現したのがきっかけです。
JCAAはこれを受け、「業界のイメージを低下させる差別語だ」と批判しました。
2008年にピークを迎える
インターネットカフェは右肩上がりに成長を続け、2008年に売り上げ・店舗数のピーク期を迎えます。
ただし、それ以降はスマートフォンの普及とリーマンショックによる不況が重なり、徐々に衰退期に入っていきます。
2010年代以降は成熟期となり、設備投資やサービスの多角化が求められるようになりました。
鍵付き完全個室やカラオケの併設、Web予約、電子コミックなど、従来のサービスよりも高い水準が求められるようになります。
貧困ビジネスとしての側面
埼玉県蕨市のインターネットカフェが行うサービスが「貧困ビジネス」ではないかと批判されるように。
1ヶ月分の利用料金(5万7600円)を前払いすることで、「ネカフェの店舗を住所として認められた」という出来事がありました。
住所があれば銀行口座の開設など、公的な手続きができるようになるため、安価で住所が手に入るとして人気を集めました。
お店サイドも「日本で唯一、住民票登録ができるネットカフェ」という謳い文句で宣伝するほど。お店も増設して売り上げを急激に伸ばし始めます。
ただし、宿泊施設化すると旅館業法に抵触するため、あくまでも複合カフェという枠組みです。
法的にグレーな部分も多く、「家を借りられない貧困層から搾取するビジネスではないか」という指摘があります。
コロナ禍でのコワーキングスペース化
2020年以降はコロナ禍により、インターネットカフェ業界全体にも大きな被害が生じます。
業界最大手の快活クラブは逆風の中、店舗数を増やし、コワーキングスペースを作るなどの新たな事業展開を試みます。
テレワークをしているビジネス層向けに、防音個室・高速ネット回線を謳い文句として、リモートワークに適した環境を整えました。
結果、現在はコロナ以前の売り上げ水準に近づき、店舗数も増えるなど、ネカフェの新たなビジネスモデルを確立しています。
また、設備投資にお金がかかるため、テレワーク化は他のチェーン店や個人運営のお店は真似しにくいというメリットもあるでしょう。
漫画喫茶・インターネットカフェは社会情勢の変化を表している
漫画喫茶・インターネットカフェの歴史は面白いことに、「時代や社会の変化にモロに影響を受ける業界」だと分かりました。
- 漫画が流行れば漫画喫茶
- インターネットやオンラインゲームが流行ればインターネットカフェ
- 日雇派遣労働者の増加と不況によるカプセルホテル
- テレワーク・リモートワークが増えればコワーキングスペース
ここまで柔軟かつ貪欲に変化を遂げる業界もなかなか珍しいのではないでしょうか。
「社会情勢に合わせて、法律に触れないラインでビジネスモデルを変える」のが複合カフェの立ち回りです。そうして約25年の歴史を紡いできたと言えますね。
従来の漫画・ネット・ゲーム・アミューズメント・カプセルホテル的サービスでは戦えないインフレした業界で、生き残るのは次なるサービスの展開が必須となるのかもしれません。